ラベルのセンスがなんとも良い。
明るい、品のある鳶色の地に銀色【七歩蛇】の文字がなんとも冴える。
お酒の話なのにラベルの話から始まって恐縮である。
地酒の蔵が期間限定で出店している阪神デパートで、味と相まって思わず即買いしてしまった。
七歩蛇(しちほだ)とは、日本の古い怪奇談に出てくる蛇の名前で、猛毒を持っている。その蛇が這った後は一条に草が焦げ枯れ、また噛まれた場合は七歩も歩かないうちにその毒のために死んでしまうという。
全長六センチ程、全身赤い体、鱗と鱗の間が金色に輝き、耳が這えそれは後ろに尖っている。その怪しげな風体の特徴は鮮烈である。
お酒のパッケージと名前にそんな由来を持つ蛇を登場させた蔵は、熊本県の河津酒造である。
熊本とはいっても、阿蘇と九重連山とに抱き挙げられるようにして熊本から大分側に飛び出ている小国町にその河津酒蔵はある。
九州では、日本酒優位地域と焼酎優位地域とがまだら模様に存在する。熊本はどちらかといえば焼酎優位地域である。
ただ、日本酒好きなら名前は聞いたことがあるであろう、酵母の逸品種、「9号酵母(きょうかい9号)」はいわば熊本生まれであり、この酵母は今でも全国で多くの吟醸酒づくりに使用されている。
熊本はそれだけ日本酒造りの歴史に関わり深く、また現在でもその伝統に思い入れが深い県だと言える。
試飲の時に、「9号酵母ですね」、と言ったら蔵の方に「熊本では熊本酵母って呼ぶんですよ」とやんわり訂正されてしまった。
初めて知ったのだが、熊本県はまたその80%が地下水由来の上水を県域で供給しており、熊本地域ではなんとほぼ100%の生活用水が地下水からまかなわれているという、全国でも珍しい、有数の水に恵まれた地域でもあるという。
酒造りにかかせない伝統と水、なかなか興味深い。
お酒は薫酒、米や麹由来の香りが優勢で吟醸香は仄かである。飲み口と含み香は比較的に弱く、不思議とちょっと他人行儀に澄ましたよそ行き顔の印象を持った。飲み後もドライ、切れはいい方で後引きも少ない。
最初、珍しく家で輸入ステーキ焼いてこちらと合わせていたのだが、なんか違和感。その他人行儀さの印象が余計際立ってしまう。そして塩味で食べていたステーキに醤油をちょっとたらして合わせたら、さすが、醤油が接点になってくれてお酒のまろやかさが感じ取れるようになってきた。
冷蔵庫にいろいろあるストックの中からウニめかぶ取り出して合わせたら、なんと、見事調和、パチパチ。ああうまい。
恐ろしい毒で歩けなるということはもちろんありません(笑)。また二日酔いにもなりませんでした。
七歩蛇 純米吟醸
原料米 熊本県産米
精米歩合 50%
日本酒度 +5
河津酒造 熊本県阿蘇郡小国町
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